湾水振動 Harbor Oscillation
湾水振動とは,
どういうものでしょうか.
長い波が,湾や港の中に入射すると,数十分といった一定周期で,海面が上下することがあります. これを「湾水振動」,または,「セイシュ」と言います.
周期は,1回揺れるためにかかる時間です. 湾水振動の周期は,湾や港の大きさや形によって決まります. この揺れの周期を「固有周期」と言います. 友人の寮の風呂に入らせてもらったことがあります. 人が出入りする度に,水面が揺れるのですが,その揺れがなかなかおさまりませんでした. 肩までつかりにくかったのを覚えています. 浅くて,細長い浴槽でした. どうすれば,揺れをおさめることができるか,考えてみると面白いかも知れません.湾水振動は,船の停泊や,荷物の揚げ降ろしの邪魔をすることがあります. そのため,港の計画や設計をするときに,入射波に対して海面がどのように揺れるのかを考えておく必要があります. これを港の「応答特性」と言います.
ところで,長い波があまり入って来ないようにするために,港の入口を狭くする方法が考えられますが,港の入口があまりにも狭いと,港に進入した波のエネルギーが港の外に出にくくなり,湾水振動がかえって大きくなります. 湾水振動には,このようなパラドクスが存在します.
湾水振動の解析のための
非線形数値モデルの開発
湾水振動の解析のための数値計算モデルを開発しました.
種々の港湾形状が「湾水振動」に与える影響に関して検討するための数値解析モデルを提案しました. 対象領域を領域分割して ADI 法を適用することにより,基礎方程式である非線形緩勾配方程式を解きます.
線境界入射法,スポンジ・レイヤ及び Sommerfeld の放射条件を組み合わせて,効果的な無反射入射波境界を開発しました.
規則波,または,不規則波を造波し,非線形干渉によって生じた長周期波が港湾内で選択的に増幅され,更に,港外に出て造波境界で吸収される現象をシミュレートしました.
I型,L型,F型,T型,そして,Y型の各形状を有する港湾を対象として,水面変動の「周波数スペクトル」の比の平方根によって定義した港内の「増幅率」を算出し,各港湾に対する結果を比較しました.
分岐した湾で発生する
湾水振動の数値解析
九州西岸域では,2〜4月にかけて,「あびき」と呼ばれる湾水振動が頻繁に観測されます. 漁業の網が引かれることから,あびきと言うようです.
2009年2月24日〜26日に,九州西岸域の広範囲であびきが生じた際には,鹿児島県と熊本県において,船舶の転覆や床上・床下浸水等の被害が発生し,鹿児島県上甑島(かみこしきじま)の浦内湾の湾奥に位置する上甑町瀬上地区の小島漁港では,全振幅が3mにも達する水位変動が確認されています. また,2本に分岐した湾形を有する浦内湾の分岐部に設置されたマグロ養殖の大型生簀も破損被害を受けましたが,これは,あびきに伴う大きな流速によると考えられます. こうしたあびきは,湾の「固有周期」付近の周期を有する長周期波成分が各湾に入射するために発生しますが,そのような長周期波が外洋で生成する原因の一つとして,海上における気圧の擾乱が挙げられます.
ところで,ある湾内であびきが大きく成長するためには,その湾の固有周期に近い周期の成分が,外洋において比較的大きなエネルギーを有して湾に入射すること,そして,そうした長周期波が,湾内で減衰してしまう前に継続して入射することが必要です. 前者に対しては,気圧変動の偏差の絶対値と,気圧波の移動速度が長周期波の波速に近い場合に生じる「共鳴作用」とが関与するでしょう. 他方,後者の原因としては,地形に起因する反射といった何らかの機構により,入射波が複数波となることが挙げられます.
そこで,本研究では,あびきを増大させる可能性のあるこれら二つの原因に着目して,東シナ海上の気圧変動に伴う長周期波の発生・伝播過程の数値解析を行ない,浦内湾におけるあびきの生成要因に関して調べました.
様々な形状の湾における
湾水振動の数値解析
湾の形によって,様々な湾水振動が発生します.
2009年2月24日〜26日に,九州地方の広範囲で,湾水振動を伴う顕著な潮位変動が発生しました. このとき,鹿児島県と熊本県では,船舶の転覆・沈没及び家屋の床上・床下浸水が発生しました. このような被害を防ぐためには,長周期波の入射に対する湾の応答特性を把握しておく必要があります.
ところで,実存する湾は,その平面形状や静水深の分布が複雑であることが多いでしょう. 多くの要因が影響する,実存湾の複雑な振動特性を理解するためには,実存湾とモデル湾が示す振動特性の類似点や相違点を押さえていくことが必要となります. そのためには,様々なモデル湾が有する特性の一つ一つを把握しておくことが要求されます.
そこで,本研究では,様々な平面形状,そして,静水深分布を有する湾を対象とした数値実験を行ない,湾形の特徴が湾水振動にどのような影響を及ぼすのかを調べました. 湾水振動の非線形性を考慮するため,非線形浅水方程式系に基づく数値モデルを適用しました. 対象とした湾は,静水深が一様なI型湾,L型湾,三角形湾,狭窄部を有する湾,複数の湾口を有するC型湾,そして,湾長方向,または,湾幅方向に静水深の異なるI型湾とし,規則波が入射する場合の各湾の応答特性を調べました.