内部波 Internal Waves

内部波とは,何でしょう.

 水の上に,密度の軽い油の層が浮かんでいるとします. このとき,油の表面を波が伝播していくのを見ることができます.

 他方,油と水の間の面,これを界面と言いますが,この界面を波が伝播していくのも観察することができます.

 前者の波を「表面波」,後者の波を「内部波」と呼びます.

 上の写真では,透明な液体が油で,黄色く着色された液体が,水です. 上・下の液体の間に,内部波の存在を確めることができます.

 ところで,上記の油の表面の波は,油と,その上にある密度の軽い空気との間の界面に見られる波とも言えます. すなわち,いわゆる表面波も,内部波の一つなのです.

 また,海や湖などでは,一般に,流体の密度が空間的に連続的に分布していると言えます. こうした場合にも,流体内部を内部波が伝わります.

 水の波の復元力は,重力です. 従って,密度の分布が,水の波の起因力となるのです.

内部波を記述する
非線形方程式

 密度の異なる流体が,何層も重なっている状態を想像してみて下さい. これらの層の間の各界面に,内部波を見ることができるでしょう. ところで,表面波の方程式は,1層の水の運動を表わす方程式です. 従って,表面波の方程式を鉛直方向に幾つもきちんと積み重ねると,内部波の方程式が得られます.

    <密度の異なるジュースを重ねたレインボウ・ジュース>

 密度成層が発達した沿岸域では,「内部潮汐波」や「内部セイシュ」のような長周期内部波とともに,「境界面の不安定性」や「海底地形の空間的な変化」等が起因とされる短周期内部波が観測されています. また,数値計算において,「波の弱非線形性」を考慮すると,波群から「拘束波」や「自由波」として発生する,数分程度の周期の内部波が再現されます.

 こうした様々な周期の内部波が表面波と相互干渉しながら伝播するとき,表面波と内部波の両者が互いに,または,それぞれが独立に,広い周波数帯域にわたる成分波間でエネルギー交換を行なうでしょう. 更に,浅海域に達すると,表面波・内部波ともに,非線形性が強くなるでしょう.

 そこで,本研究では,「変分原理」に基づいて,表面波と内部波が共存する波・流れ場の支配方程式系を導出し,表面波及び内部波の「強非線形性」・「強分散性」が考慮可能な数値解析手法を開発しました. 基礎方程式系の導出において,各層の速度ポテンシャルを鉛直分布関数の級数に展開し,「練成振動」の概念を適用して,平面2次元の非線形方程式を求めました.

透水性海浜における
内部波の数値解析

 砂浜のような斜面を伝わる内部波の波形は,どのような変化を見せるでしょうか. ここでは,上記の方程式を拡張して,数値計算で調べています.

 密度が異なる流体の境界面では,様々な原因によって内部波が発生します. 表面波ほど重力による復元力が働かない内部波は,波高が大きくなりやすいのです. 沿岸域に生成・伝播した大きなエネルギーを有する内部波は,水質環境や漁場形成に影響するのみならず,底面流速を単一密度の場合から変化させ,底質移動にも影響を与えるでしょう.

 そのため,透水性海浜において斜面上を伝播し,透水層に透過していく表面波及び内部波を対象とし,個々の波の挙動を数値解析によって解明することが必要です.

 本研究では,まず,「多孔質媒体」からなる透水性海浜を想定し,多層密度流問題のための完全非線形方程式系を透水層内の流体運動が考慮可能な方程式系に拡張しました. 透水層の上面付近で,空隙率を1から透水性媒体の空隙率まで鉛直下方に滑らかに遷移させることにより,水面から透水層下面までを同一のモデルで解析することが可能となります.

 更に,岸側境界を汀線より岸側に設けた固定境界とすることにより,表面波と内部波の両者の「run-up/down」を固定境界問題として扱えます.

 また,浅海域を進行する表面波と内部波は,砕波点付近で複雑な波形を見せ始め,砕波帯内で乱れや混合といった現象を発生させるでしょう. ここでは,異なる流体が混合せず,波形が水平方向座標の1価関数であるという仮定のもとに,渦や乱れの効果をエネルギー減衰項を用いて記述します.

 次に,本方程式系に長波近似を行なってから,2層問題を対象として,透水性海浜における内部波の数値解析を行ないました. 2層問題では,「critical level」が存在し,内部界面との位置関係によって保存波となる内部波形が異なります. この点に着目し,内部孤立波の初期波形が上に凸であるか下に凸であるか,また,それが critical level より上にあるか下にあるかによって場合分けを行ない,層厚比,透水層上面の勾配や空隙率といった諸条件を変えて,内部波の浅水変形や,run-up/down,そして,地中や透過潜堤への透過に関して定量的に評価しようとしました.

透過性構造物近傍の
表面波・内部波

 近年,水環境の保全・改善の観点から,海水交換をなるべく妨げないような海岸構造物の開発が進められています.

 本研究では,2層に成層化された水域に,各種の透過性構造物を設置した場合の,表面波,内部波及び生成される流れ場の数値解析を試みました.

流体の密度を考慮した
非線形波動方程式

 密度が連続的に分布している流体中を伝播する内部波を表わす方程式を提案しました.

 本研究では,流体の密度の空間的・時間的変化を考慮した,波・流れ場解析のための「鉛直積分型の方程式系」を提案しました. 流体の密度は,鉛直分布関数によって表現し,その関数形を変分法によって数値的に定めます. その結果,密度が空間的に急激に変化する位置が「密度界面」となり,この界面の水平方向座標に関する「多価性」が許されるようになります.

「連成振動」の考え方を適用して導出した本方程式系は,完全非線形であり,また,鉛直積分の結果,平面2次元形であるがゆえに,数値解析の経済性が向上するのみならず,3次元モデルを用いる数値計算に伴う幾つかの困難さを回避できるという特長があります. 更に,流体の圧縮性も考慮するため,本方程式系は,気液混相流に対して適用可能です.

閉鎖水域を往復する内部波

 風の作用により,湖の中の界面が傾き,これが元に戻ろうとしたとき,内部波が発生します. こうして生じた内部波は,湖を往復するでしょう.

 本研究では,水槽内を往復する内部波の実験値及び Boussinesq 型方程式系を基礎方程式とする数値モデルの解析結果と,上記の数値モデルによる数値解析結果とを比較しました.

内部ソリトンの再現性

 ソリトンとは,簡単に言うと,形が変わらず伝わり,他のソリトンとぶつかっても,離れてしまうと,また,形が変わらず伝わる波のことです.

 沿岸域に存在する「汽水湖」,「エスチュアリ」等の沿岸域では,塩水と淡水が存在することや,日射の影響により,密度成層が発達しやすいと言えます. 「成層場」では,表面波から想像しがたいほどの振幅を有する内部波が発生することが知られており,そうした内部波は,地形の効果により砕波すると,「巻き上げ」や「貫入現象」を通して,「物質循環」に影響を与えることが報告されています. 特に,2成層が成り立つような場合,内部波の斜面上における砕波により,界面下に明確な貫入が発生することが知られています.

 ところが,内部波が,どのように変形・発達するかに関しては,十分な検討が行なわれていません.

 そこで,本研究では,3次オーダのソリトン解を初期値とし,内部波の「強非線形性」及び「強分散性」を考慮した数値モデルを適用して,内部ソリトンの1次元伝播の数値解析を行ない,数値モデルの適用性を調べました.

深水域や砕波点近傍における
内部波

 内部波には,深い波もあれば,浅い波もあります. 短い波もあれば,長い波もあるとも言えます. 実際に,様々な内部波が観測されています.

 沿岸域では,「内部セイシュ」や「内部潮汐」といった「内部長周期波」のみならず,数分程度の周期の「内部短周期波」も観測されます. 後者の発生原因としては,「水底の地形」や「界面の不安定性」が挙げられます. こうした内部波は,広い周波数帯域にわたる成分波間でエネルギーを交換しますが,「水深波長比」が大きな内部波の「非線形性」及び「分散性」の研究は,あまり進んでいません.  また,内部波の「砕波」は,沿岸域の「物質輸送」に関与しますが,界面の不安定問題や密度構造等と相互に関連する複雑な機構を有するため,内部波の砕波限界に関しては,不明な点が多いのが現状です.  そこで,本研究では,まず,水深が相対的に深い水域を伝播する内部波を対象とし,固定水平板に挟まれた水槽内を往復する内部波の水理実験,そして,自由水面のある水槽内を往復する表面波・内部波の水理実験を実施し,これらの実験の結果を波の強非線形性・強分散性を考慮した「変分原理」より導出される非線形内部波方程式に基づく数値解析の結果と比較しました.  次に,内部孤立波の3次解を初期条件として与え,斜面上を伝播する「内部進行波」及び鉛直壁に衝突する「内部重複波」の,砕波点近傍における物理量に関して調べました.

内部波のマッハステム

 2方向に伝播する内部波の重ね合わせでも,条件によって,マッハステムが発生します.

 本研究では,2方向に伝播する内部波の重合によって生じるマッハステムの数値解析を実施しました.

様々な地形上を伝播する
内部波

 潜堤上を伝播する内部波

 内部波を解析するために,様々な非線形内部波方程式が提案されています. しかしながら,その多くは,導出時の仮定に伴い,流体層の「層厚比」や,各層における「水深波長比」,または,「波高水深比」に対して,適用限界を有します. 例えば,方程式系の導出において「摂動展開」を用いる場合,「摂動の核」を設定することに伴い,方程式系の適用対象が限られてきます. 従って,「潜堤」や「リーフ」周辺といった,水深が場所的に大きく変化する水域における内部波の伝播特性に関しては,表面波に対するような研究があまり進んでいません. 内部波による物質輸送は,沿岸環境に影響を及ぼしますが,その見積りのためには,内部波の変形・伝播特性を正確に把握しておく必要があります.

 そこで,本研究では,潜堤上を伝播する内部波を対象とし,波の「強非線形性」及び「強分散性」を考慮した変分原理より導出される非線形内部波方程式系を適用して,「浅水変形」や「分裂」を含む内部波の伝播特性に関して調べました. なお,堤防の上面を天端(てんば)と呼びます. 天端が水面下にある堤防を潜堤と言います. 潜堤のない水域では,水深が深くても,潜堤の天端上では,水深が浅くなる場合があります. 深い所と,浅い所では,波の動きが異なります. ここで,深いとは,波の波長よりも水深がずっと大きいという意味です. これらの両方の動きを一つのモデルで正確に表わすことが,これまで,なかなか難しかったのです.



 勾配が一様な斜面上を伝播する内部波

 一様勾配斜面上を伝播する内部波の特性を数値解析に基づき調べました.