津 波 Tsunamis

津波と風波には,どのような違いがあるのでしょう.


高潮・津波の3次元数値解析

 高潮や津波の計算において,3次元的な水の動きを考えないと,十分に正確な値が得られない場合があります. 例えば,防波堤などの周辺で,水が複雑に運動するような場合です. こんなときに,3次元数値モデルが威力を発揮します.

「高潮」や「津波」によって沿岸部に形成される海水流動場を解析するための数値解析モデルを開発しました. 本数値解析モデルを Storm surge and Tsunami simulator in Oceans and Coastal areas(STOC)と呼びます.

 このモデルは,「3次元海洋モデル」,「多層海洋モデル」と,これらを滑らかに繋ぎ合わせる「接続モデル」より構成されます. 地形急変部や構造物周辺の狭領域に,3次元海洋モデルを局所的に適用することによって,複雑な流速分布や流体力を正確に,かつ,効率的・経済的に算定できるようになります.

 また,こうした領域を囲む,より広い領域に多層海洋モデルを適用することによって,高潮の場合には,風応力と海底摩擦がもたらす表面付近と海底付近の流速特性の違いを再現し,他方,津波の場合には,その分散性を考慮できるようになります.

 ここでは,本モデルを用いて津波の数値解析を行ない,津波防波堤開口部周辺における流速分布及び潜堤部に働く圧力に関して調べました. また,津波防波堤開口部における3次元流動が,堤頭部のみならず堤幹部においても,防波堤前後の圧力に影響を及ぼすことを明らかにしました. このことは,構造物の設計において,安定性を考慮する際に,重要な意味を持ちます.

 更に,津波防波堤の後背地における浸水の数値解析も実施しました.

海底面の変動に伴う
津波生成過程の数値解析

 海底が上昇すると,その上にある海水は,持ち上げられて,周囲の海水よりも大きなエネルギーを持つことになります. ところが,このままでは,バランスがとれていません. そのため,このエネルギーが四方八方に伝わることになります. こうして,津波が伝わります. 海底が下がる場合も,同様です. 従って,津波を把握するためには,海底面の変化と,その結果生じる津波の関係をよく知っておく必要があります.

「空隙率」と「VOF 関数」を併用することにより,計算格子を固定したままで底面や水面の変動を考慮可能な数値モデルを適用して,海底地形の変化に伴う津波の発生過程の数値解析を行ないました. その際に,「静水圧近似」や「長波近似」を行なわない計算手法を適用し,非圧縮性流体の運動を解析しました.

 時間とともに進行する海底の隆起や沈降によって生成される津波の水面形や,流体内の速度,加速度及び圧力を算出しました.

 鉛直2次元解析では,津波の初期波形が初期水深に依存し,底面の永久変位と必ずしも一致しないこと,また,地変速度の変化に応じて,流体内に動圧が発生することを確認しました.  そして,津波の発生から遡上までの一連の過程を対象とした計算を行ないました.

 更に,津波生成過程における,波源域近傍の複雑な流体運動の3次元計算を行ない,生成した津波が斜面上を伝播する様子をシミュレートしました.

津波地震の地変形態と
形成される津波の数値解析

 地震から予測される津波よりも大きな津波が生じるような地震を「津波地震」と言います. 予測値よりも大きな高さの津波が来るのですから,津波地震は,とても危険です. 従って,津波地震に関して,十分に研究しておく必要があります.

 津波形成過程の流体運動に着目し,「津波地震」による海底地形の変化(地変)をA〜Gの七つの形式に分類しました.

 ここでは,このうち,A形式,B形式及びE形式に分類される地変を対象とし,非線形浅水波モデルを適用して,仮定した地変に伴う津波の数値解析を行ないました.

 その結果,A形式の地変,すなわち,一定領域で起きる,継続時間の長い地変の場合,底面の隆起速度が遅いと,津波の伝播によって津波高さが抑制されることがわかりました.

 また,B形式の地変,すなわち,場所を変えて起きる地変の場合,伝播する津波が,その下方に現れる底面隆起の発生時刻,隆起速度,隆起進展幅,進展時間及び進展速度に依存して成長することがわかりました.

地滑りや氷河崩壊による
津波の生成

 津波の発生原因は,上記のような,海底の上・下動だけでは,ありません. 地滑りで崩れた土砂や,崩壊した氷河のかたまりが水中に落下した場合にも,大きな津波が発生することがあります. こうした様々な発生原因と津波の関係を知っておくことが大切です.

「地滑り」により生成される津波は,「断層運動」によって引き起こされる津波に比べて発生頻度が低いものの,歴史的に見て,その規模・被害ともに大きくなる可能性が高いと言えます. 例えば,眉山の山体崩壊により発生した1792年有明海津波は,有明海を伝播し,対岸の肥後・天草を襲いました. また,2007年8月には,ノルウェー北部の Svalbard 諸島沿岸で,「氷河崩落」に伴い津波が発生し,付近を通航中の遊覧船の乗客ら 18 人が重軽傷を負いました. 氷河の崩落による津波の発生は,地球温暖化の影響によって,今後,頻度が増すことが危惧されます.

 こうした,土砂等の崩落に起因する津波が地震によって発生する場合,その地震は,「津波地震」となる危険性があります. なぜならば,断層運動だけでは,大きな津波が発生しない場合であっても,その断層運動によって誘起された地滑りに伴い,副次的に津波が発生し,成長して,地震動のデータに基づく予測を超えるような大きな津波が,大規模な被害をもたらす可能性があるからです. 1771年八重山津波では, 地震の揺れが大きくなかったにも関わらず巨石の流出が見られたという記述が残されており,地震によって海底地滑りが発生した可能性が指摘されています. 南西諸島海域では,島嶼が断続的に連なっていることからもわかるように,海底地形が複雑で急峻な場所も多く,地盤を構成する地質によっては,海底地震が地滑りを誘発する可能性が高いでしょう.

 そこで,本研究では,様々な粒径の球状粒子及びロック状粒子を用いて,斜面勾配を変化させて水理実験を行ない,崩落する粒子群と,それらに誘起される津波の特性との関係を調べました.

津波の陸上遡上の数値解析

 巨大な津波は,御存知の通り,陸上にも容赦なく襲いかかって来ます. 従って,陸上での津波の動きや,力を知っておくことが,防災対策に必要です.

 津波伝播の数値解析では,一般に,浅水理論を基礎方程式とする平面2次元モデルが実用に供されています. ところが,津波によって引き起こされる海水流動は,遡上域や,構造物近傍において,鉛直運動を含む3次元的な挙動を示します. 2004年スマトラ沖地震津波は,海岸構造物を乗り越えて陸域に遡上し,構造物と相互に作用する津波の複雑な流動が撮影されました.

 そこで,流体運動の3次元性を再現可能な高潮・津波数値シミュレータ STOC を構成するモデルのうち,二つの3次元数値モデルを適用して,複雑地形に遡上する津波の挙動のシミュレーションを行ないました. これら二つのモデルは,ともに非静水圧モデルであり,動圧の効果も考慮します. そして,二つのモデルの違いは,自由水面位置の決定方法にあり,一つは,鉛直方向に積分した連続方程式によって,他方は,3次元 VOF 法によって,自由水面の位置を算出する点です.

 計算対象は,1993年北海道南西沖地震津波の最高遡上高の再現を試みた水理模型実験としました. この最高遡上高は,奥尻島において,痕跡として確認されました. これら二つの3次元数値モデルを適用して,津波の伝播,そして,遡上の数値計算を行ないました.

流速分布や密度成層が
津波の伝播に与える影響

 水の動きの鉛直方向の違いや,密度成層は,津波の伝播に,どのような影響を与えるのでしょうか.

 本研究では,流速分布や密度成層の存在が,遠地から伝播して来る津波に与える影響に関して,1次元数値モデルを適用して調べました.

変位の大きな比較的短周期の
津波の伝播

 2011年東北津波では、津波高さの巨大な、比較的波長の短い津波が観測されました。

 本研究では,変位の大きな比較的短周期の津波がどのような伝播特性を示すのかをモデル地形を対象とした数値解析により調べました。 更に,実地形を対象とした津波の1次元元伝播解析を行ない,上記の観測された水面変動をもたらす,津波波源域の初期水面形を試行錯誤により推定しました。

海底火山の噴火による
津波の生成

 海底火山の噴火によって、津波が発生する可能性があります。

 本研究では、海底噴火によるマグマ水蒸気爆発と,それに伴う津波初期波形の関係に関して考察し,津波に対する海底噴火の規模の指標を提案しました。 そして,この指標の値を設定し,桜島近傍を対象として,マグマ水蒸気爆発により生成される津波の伝播解析を実施しました。

 また,火山噴火の際には,マグマの放出等に伴い,カルデラが形成される場合があります。 ここでは,桜島近傍で,海底噴火によりカルデラ陥没が生じる場合を想定し,鹿児島湾内における津波の伝播解析を行ないました。